ニュース

2025.12.22

mRNA標的核酸医薬品自社パイプライン特許出願のお知らせ

当社では、自社でmRNAを標的とする新たな医薬品の創出(パイプライン創出)の取り組みを進めております。2025年6月16日付『mRNA標的核酸医薬自社パイプラインの対象疾患決定のお知らせ』にて核酸医薬品(ASO*1)による疾患治療プロジェクトの開始についてお知らせしておりましたが、その後プロジェクトが進捗し、核酸医薬品について物質特許の出願を行いました。これまで非公開としていた対象遺伝子の情報とあわせて、以下お知らせいたします。

● 発明の名称:標的転写産物の発現量の減少剤
● 出願番号:特願2025-266856
● 遺伝子名:p53
● 対象疾患:心臓血管手術後に惹起される虚血性の急性腎不全
● 新規性:ファーストインクラス(既存薬無し)
● モダリティ:核酸医薬品(ASO)
● 国内対象者:心臓血管手術患者のうち65歳以上
● 国内売上予測:約150億円/年
● 想定開発期間:8~10年(開発スケジュールは今後詳細決定予定です)
● 開発戦略:心臓血管手術を行う患者さまのうち、急性腎不全の発症リスクが高いとされる65 歳以上の方々を対象とすることにより、早期の承認取得を目指します。承認取得後、適応追加を模索するとともに、グローバル展開を進めます。将来的には虚血性の他臓器不全へのさらなる適応追加も視野に入れて研究を進めます。

当社は、mRNA 標的創薬を可能とする当社独自の創薬プラットフォーム aibVIS*2を活用し、医薬品市場にて最大のセグメントである低分子医薬品の創出をパートナー企業と取り組むと同時に、成長性が最も高いセグメントと期待される核酸医薬品にも自社創薬による研究開発に取り組んでおります。これは mRNA 標的低分子医薬品を探求しつつ、アンメット・メディカル・ニーズが存在する希少疾患には、適切なモダリティである核酸医薬品で応えていこう、との当社の成長戦略に基づくものです。また当社の持つ技術が、低分子創薬、核酸医薬創薬のどちらにも適用可能という長所を活かし、他社との差別化を一層図っていこう、との事業戦略でもあります。

対象疾患とした虚血性の急性腎不全は、心臓血管手術の際に血流量が少なくなることにより臓器の機能が低下する疾患のうち、特に腎臓がダメージを受けるものです。心臓血管手術は日本国内で年間約5万例が実施されており、そのうち腎臓がダメージを受ける疾患はおよそ 15~30%の確率で発生するとされ、新しい治療法により発症を防げるようになれば大変意義深いものと考えております。この疾患は発症時期が明確に判明していることから臨床試験が組み立てやすく、また発症確率も比較的高く臨床試験で有意差も得られやすいと考えられることから、臨床試験を通じて治療の有効性が確認できるものと考えております。現時点での売上予測の想定に加えて、適応拡大や海外展開により、さらなる収益確保の可能性についても追求していく方針です。

対象遺伝子としたp53には細胞のアポトーシス*3を促す働きがあり、がん細胞の増殖を抑える遺伝子として知られます。p53 の発現によりがん細胞のアポトーシス(死滅)が促され、がん細胞の増殖を抑制する効果につながります。一方、虚血性腎不全の場合には、p53の発現が腎臓細胞の予期しないアポトーシスに関与していることから、p53を抑制することによって腎不全を予防できることが知られております。同業他社が開発中のsiRNA医薬品*4の候補物質で実施された第二相臨床試験では、p53の抑制による腎不全の予防に有意な効果が確認されております。
当社はこれまでに、対象遺伝子としたp53に関連する核酸医薬品の物質特許を取得しておりますが、当社が持つ最新の知見や技術に基づき改良を重ね、同業他社のsiRNA医薬品候補物質や、当社の既存物質を超える活性をもつ新型の核酸医薬品(ASO)の創出に成功し、このたびの特許申請となりました。

また当社では 2025 年 12 月 15 日付『当社独自のドラッグデリバリーシステム「Perfusio」特許査定及び権利化手続完了のお知らせ』にて、治療対象となる臓器に医薬品を特異的に送達できるドラッグデリバリーシステム*5の特許査定を得たことをお知らせしたところですが、このたび特許申請に至った新型の核酸医薬品と、このドラッグデリバリーシステム「Perfusio(パーフュージオ)」の組み合わせを実現させることにより、従来よりも高い薬効と副作用の低減が同時に期待できる治療方法を提供できる可能性があります。

核酸医薬品については、製造コストが相対的に高くなることが指摘されております。当社はこの点に、QbD*6の観点を採り入れて創出する「シンプルな核酸医薬品」によって製造コストを抑えること、また、患者さまへの局所投与あるいはドラッグデリバリーシステムの実現により使用量を減らすこと、また投与を手術前の1回のみとすること等により、費用対効果の高い用法及び用量の確立を目指します。同時に、この投与方法により副作用や毒性の低減も期待できるものと期待されます。今後当社が行う創薬研究においては、核酸医薬品の製造面などの特性も考慮した研究を進める方針です。

● VIS執行役員 研究戦略部長:笹川:達也:コメント
当社は、継続的に創薬プラットフォーム ibVIS®の技術向上に取り組んでおり、aibVIS に進化させております。このたび、当社が誇る最新技術を用いて、同業他社が臨床試験を進めているsiRNA医薬品を凌駕する核酸医薬品の候補が得られたことは、大きな喜びであり、また強い自信になっております。
当社がこれまでプラットフォーム事業を通じて培ってきた経験はASOの創薬にも存分に発揮でき、また当社独自のドラッグデリバリーシステム「Perfusio(パーフュージオ)」を適用できることになれば、従来の想定よりさらに早く、患者さまに新たな治療の選択肢をお届けできる可能性があります。
今後も自社創薬研究にも注力し「希望に満ちたあたたかい社会」の実現に貢献したいと考えております。

● 今後の業績に与える影響
今回の特許出願によって、当社の成長戦略にてKPIに設定している「自社パイプライン創出(2025年度分)」の達成となります。
今後、開発期間中(8~10 年を想定)、創薬研究の進捗に応じて研究開発費の支出を予定しております。このうち2025年度(2025年12月期)分の支出については、2025年10月14日付でお知らせした2025年12月期の業績予想に織り込まれており、その業績予想に変更は生じない見込です。
なお今後、開示すべき事項が生じた場合には、速やかにお知らせいたします。

【用語解説】
*1 ASO:Antisense Oligonucleotide の略/アンチセンスオリゴヌクレオチド核酸医薬品の一種で、標的とするmRNAと結合して、タンパク質の生成を阻害したり、mRNAの分解を促進する働きを持つ物質です。
*2 aibVIS:mRNA標的創薬に必要となる全てのデジタル技術及び創薬技術を統合させたVIS独自の創薬プラットフォーム。これまでの創薬プラットフォームibVISに実装されていた複数の機能特化型AI(人工知能)それぞれの発展・機能強化を図りバージョンアップ。AIやスーパーコンピュータ「富岳」などを駆使して、生物が持つ遺伝情報や生体分子の構造などを数値化し、生理的な条件を踏まえた研究によるmRNA構造解析により、任意に選択したmRNAより高速かつ高精度で複数のターゲット構造の探索が可能です。
*3 アポトーシス:生物が個体を健全に保つために、古くなった細胞や不要な細胞が計画的に自滅する仕組のこと。細胞自身が小さく縮み、断片化して他の細胞に不用物として回収されるように処理するシステムで、炎症を起こさず、体を正常に保つために必須の働きです。
*4 siRNA 医薬品:特定のmRNAに結合して分解を促進し、病気の原因となるタンパク質が体内で生成されないようにして疾患の発生を抑える「核酸医薬品」の一種です。RNA干渉というメカニズムによって標的とするmRNAの分解をする働きを持つ物質で、遺伝性疾患や希少疾患を中心に、特定の遺伝子異常が引き起こす病気の治療に用いられ、原因遺伝子の働きをピンポイントで抑える新しい創薬手法として注目されています。
*5 ドラッグデリバリーシステム:医薬品の有効成分を治療対象となる標的(主として臓器)に届けるためのシステムです。通常は医薬品に標的臓器に選択的に到達するような分子を化学的に付加したり、薬物を脂質の二重膜で包んだりする手法が使われます。しかし当社では、物理的に動脈側カテーテルで対象臓器にアプローチし、さらに静脈からもカテーテルでアプローチすることにより、物理的に医薬品を届けることをもってドラッグデリバリーシステムの一つとしています。
*6 QbD:Quality by Design の略。製品設計時から製造した際に品質を担保できることを考慮に入れるという考え方。